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slip into chaos - 「ウミウシガイドブック」小野篤司著(TBSブリタニカ/ISBN4-484-99298-1)

それは1999年の夏のこと。近所の本屋さんのカウンターに置かれていたチラシに釘付けになった妹が「うっわ〜、これすごいわ〜」と言って手に取ったのが「ウミウシガイドブック」の出版予告でした。

ウミウシというと茶色っぽくてナマコのようなイメージしかなかったのが、そのチラシには色とりどり、形も様々なウミウシたちが紹介されていたのです。

「ガイドブックが出るって事は、ウミウシ結構人気あるんじゃん」なんて言いながらその場を立ち去ったのでしたが、その印象は強烈でした。

そして今年の春になって、仕事の関係で専門書を探しに都内の大きな書店に出掛けた時に、あろうことかレジの前に平積みになっていたのがやはりこの「ウミウシガイドブック」。しかも横には「ウミウシガイドブック2」まで置いてある! ウミウシ大ブレイク?

一も二もなく手にとって、ろくに中も見ずにレジへ。そして帰りの電車の中で読んでみると………お、面白い。

著者である小野篤司さんは、上智大学で紀尾井文学会に在籍していながら現在は沖縄・座間味島でダイビングのガイド業を営みながら海洋生物の撮影と執筆を続けているという変わり種。ですが、その独自の視点こそがこの「ウミウシガイドブック」の特徴であり面白さでもあるのです。

本書に収められたウミウシとその仲間達は実に300種類。沖縄・慶良間諸島の海に棲むウミウシたちです。中には生物学的に分類されていないものもあり、そんなウミウシには小野さんが仮の名前(新称)を付けているのですがこれがまたユニーク。すべてオールカラーの写真と小野さんの解説付きなのですが、この解説がまたうまい。ちょっと拾ってみますと、

枚貝のように見えるが実は2枚の殻を持った巻き貝。2枚の殻を持っているならやっぱり二枚貝だろうなどと突っこまないように。そういうことになっているんだから。−−−−−タマノミドリガイ

はじめて出会った個体はなんと1.5mmという小ささであった。(中略)その後3mmくらいのやつはよく見たが、6mmのものに出会ったときはあまりの大きさに全身総毛立った。人間、日頃は貧乏に甘んじているのがよい。ちょっとしたことでも喜べる。という人生勉強をさせてくれた本種は(以下略)−−−−−ツマグロモウミウシ

素晴らしい命名である。このウミウシに出会っただけで「白妙の衣ほしたり天の香具山」の万葉歌がアタマの中をかけめぐる。−−−−−シロタエイロウミウシ

アップリケのようなかわいいウミウシで、ご多分に漏れずカイメンへの隠蔽擬態。この縫い目がなかったら、さらに上手に化けられるのに。カイメンにアップリケ付けても、しょうがないでしょ。−−−−−アップリケウミウシ(新称)

愛だなあ。

小野さんの手による写真がこれまた綺麗で、自然のつくり出したなんとも素晴らしい色と形を余すことなく伝えています。

わたしは海にもウミウシにも縁がありませんでしたが、これで俄然ウミウシファンになりました。

ちなみに「ウミウシガイドブック2」は伊豆諸島編で、著者は別の方です。

(2000.09.11)

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