パイオニア料理とは
それは、素材や調理法などあらゆる観点において思わず無言にならざるを得ないほど独創的な料理の事。既成概念に捕らわれない、自由な発想の元に繰り広げられる未知の料理の数々を、それを差し出された人の気持ちを察しながら味わってみて下さい。あくまで想像の中でだけ。でも実際やっちゃうのが真のパイオニア。止めませんが薦めもしません。
1.煮込みししゃも
学生時代に同居していたSちゃんの作品。
子持ちししゃもをフライパンに並べて出し汁で煮込み、「栄養を考えて」ほうれん草を添えて仕上げに玉子でとじます。
焼かないししゃもを食べたのは後にもさきにもこの時だけです。
ほうれん草はどろどろ、ししゃもはべしょべしょのホネホネ、人生の意味を考えたくなりました。
2.長芋クリームシチュー
これもSちゃんの作品。
「今日作ったばっかりのはずなのにどうして糸引いてるんだろう」
鍋を開けておたまでこれをすくった時の衝撃は忘れられません。
「じゃがいもで出来るんなら長芋でも出来ると思って」
Sちゃんは料理に限ってだけは非常にフレキシブルというかエキセントリックというかアナーキーというか、他者の追随を許さない感覚の持ち主でした。
彼女が恋をして「彼氏のためにおいしいみそ汁を作りたい」と言った時、こうして人は平凡さを身につけていくのかと思うとちょっとさみしくなったものでした。
3.あんかけ豆腐
妹の作品。
「ホントはキノコでやるんだけど、冷蔵庫にキノコがなくって、白菜があったからこれでいいやと思って」
白菜をバターで炒めてあんかけにして豆腐にかけて頂きます。
妹のダンナが一口食べるなり、
「ほら、なんだっけ、おねえちゃんが言ってたやつ、なんとか料理」
「……パイオニア料理」
「ああそれそれ、パイオニア料理」
という会話が夫婦の間にあったそうな。
妹は、作る料理全部がパイオニア料理だと言っても過言ではないほど、まさにパイオニアの中のパイオニアです。
4.たけのこチャーハン
ある日、家に帰ると「チャーハン作ったよ」と妹。珍しいこともあるもんだと思いながらフライパンを覗くと、たけのこが縦横無尽に。
「何これ」
「細切りたけのこあったからそのまま入れたんだけど」
火さえ通っていればノープロブレムという表情の妹。
確かにそうなんだけど、すくったスプーンからびょんびょんはみ出すたけのこ勢、どうにも食べにくくてしょうがありません。
スタイルにまでパイオニア精神が行き渡った渾身の一品でした。